Anthropic非公開S-1草案公開。2025年巨額損失と2026年収益急増の実態
35秒でわかる内容解説
Anthropicが2026年6月に米国証券取引委員会(SEC)に提出した非公開IPO prospectus(株式公開時の目論見書)草案のリークにより、同社の財務実態が明らかになった。2025年の計算インフラ支出は73億3000万ドル(約1兆1,600億円)に達し営業損失は80億6000万ドル(約1兆2,700億円)に拡大した。一方で2026年第2四半期の収益は115億ドル(約1兆8,200億円)超となり、調整営業利益は黒字化した。大手AI企業が計算能力を巡ってどれほど巨額な資金を投じているかを示す資料であり、企業系技術者や投資家はインフラ契約の条件に注目する必要がある。
円換算は1ドル=157.98円(2026年10月15日、欧州中央銀行の参考レート)による概算で、日本での販売価格とは異なる。
計算支出の拡大と収益の急成長
2025年のAnthropicの収益は前年比12倍増の約46億ドル(約7,270億円)となった。この成長を支えるため、計算インフラへの支出は前年の3倍となる73億3000万ドル(約1兆1,600億円)に跳ね上がった。営業費用の合計は126億5000万ドル(約2兆円)に達し、そのうち計算コストが50%超を占めた。営業損失は2024年の2億9800万ドル(約471億円)から80億6000万ドル(約1兆2,700億円)へと拡大した。
純損失420億ドル(約6兆6,400億円)の大部分を占める340億ドル(約5兆3,700億円)は会計上の評価損だ。これは事業運営そのものの支出とは別に、株式化される資金の推定価値上昇を計上したものだ。同社は2025年末時点で202億8000万ドル(約3兆2,000億円)の現金と同等資産を保有していた。写真では2025年の収益対コスト構造を示す棒グラフがある。
下の画像は、2025年の収益対コストの構造を示したものである。青い棒が収益、マゼンタの棒が費用、最後の青い棒が営業損失を表す。計算コストが収益を大きく上回る構造だが、収益の47%をAmazonとGoogleのクラウドマーケットプレイスが担っていた。
2026年第2四半期の preliminary revenue(暫定的な収益)は115億ドル(約1兆8,200億円)を超えた。前年同期の7億8700万ドル(約1,240億円)から大幅に増加し、7月末時点で年間化収益は65億ドル(約1兆300億円)に達した。その第2四半期の調整営業利益は黒字化した。
マーケットプレイス経由の販売額約21億6000万ドル(約3,410億円)のうち、プラットフォーム手数料は約3億5100万ドル(約555億円)だった。OpenAIは同社が手数料をマーケティング費用として計上することで収益が膨らんでいると指摘する。また、2社の匿名顧客がそれぞれ収益の12%を占めており、契約の長期化が収益の安定に直結する。
5180億ドル(約81兆8,000億円)の長期コミットメントと供給側リスク
Anthropicは6社との間で10年間の計算コミットメント合計を最低5180億ドル(約81兆8,000億円)と約束した。契約の約80%は使用量が落ちても支払う条件だ。
| パートナー | 最低コミット額 | 契約期限 |
|---|---|---|
| 1111億ドル(約17兆6,000億円) | 2033年7月 | |
| Amazon | 1100億ドル(約17兆4,000億円) | 2036年4月 |
| Broadcom | 1612億ドル(約25兆5,000億円) | — |
| xAI | 最大845億ドル(約13兆3,000億円) | 2029年 |
| Microsoft | 314億ドル(約4兆9,600億円) | 2033年5月 |
| パートナー | 最低コミット額 | 契約期限 |
|---|---|---|
| 1111億ドル(約17兆6,000億円) | 2033年7月 | |
| Amazon | 1100億ドル(約17兆4,000億円) | 2036年4月 |
| Broadcom | 1612億ドル(約25兆5,000億円) | — |
| xAI | 最大845億ドル(約13兆3,000億円) | 2029年 |
| Microsoft | 314億ドル(約4兆9,600億円) | 2033年5月 |
最大のブロックはBroadcomに紐づく設備リースで1612億ドル(約25兆5,000億円)だ。xAIとの契約は最大845億ドル(約13兆3,000億円)だが、90日の通知でほぼ解約できる。Microsoftは2033年5月まで314億ドル(約4兆9,600億円)を約束している。
計算能力の供給が先進AIの需要を制限する主要因だと同社は位置付ける。
供給側のバランスシートが契約の強さを決めるという見方もある。Amazon、Google、Microsoftは出資者、顧客、クラウド提供者、販売代理店、競合社を同時に務める。これらパートナーの利益とAnthropicの利益が完全に一致するわけではないと提出書類は記している。
同社は収益を上げる画像や動画生成モデルの開発を意図的に見送り、計算リソースを研究と安全性の優先事項に振り向けた。新しいモデルの継続的かつ重なるリリーススケジュールが、最先端の地位を保つために不可欠だと書類は記す。Opus 5.5はリークの直前に出荷された。
分かれる市場評価と構造的問題
リークを受けた市場の反応は分かれている。前向きな見方では、新事業における巨額支出は大手企業では一般的であり、2026年の黒字化が事業の成長物語を示すと指摘する。年間化収益が9億ドル(約1,420億円)から65億ドル(約1兆300億円)へ加速した点が最大の材料だ。
一方、懐疑的な見方では、1ドル(約158円)の収益を得るのに2.75ドル(約434円)の営業費用を投じている構造が問題だとする。収益が予想を上回るたびにコストもそれ以上に跳ね上がるのが、フロンティア成長モデルの構造的特徴だという。
When the largest line in the cost base is purchased capacity rather than people, gross margin becomes a function of somebody else’s pricing
費用の最大項目が人件費ではなく調達済みの容量の場合、粗利益率は他社の価格設定に依存する。
計算コストが売上構成比で最も大きい場合、粗利益率は他社の価格設定に依存するようになる。また、サブスクライバーあたりのエンゲージメントが大幅に増加したため、現在の利用制限プランではコストが持続可能ではないとの指摘もある。
企業系顧客の偏りも課題だ。OpenAIとAnthropicの企業収益の80%が顧客の1%から生じている。CIOはベンダーよりも強い交渉力を持っていると分析する。調整黒字がGAAP(一般に承認された会計基準)基準でも維持できるか、マーケットプレイス手数料とモデル訓練コストを引いた純粋な粗利益率がどうなるかは未確定だ。
今後の注目点と確定予定
公開S-1がSECのデータベースに登録されれば、リークされた数値の裏付けとなる完全な財務諸表が入手可能になる。市場は調整黒字がGAAP基準でも維持できるか注目する。マーケットプレイス手数料とモデル訓練コストを引いた純粋な粗利益率も鍵になる。
2025年に収益の各12%を占めた2社の顧客名が判明すれば、企業契約の規模感が明確になる。計算コスト対収益比率がどの水準で安定するかも追跡対象だ。
同社は収益を左右する要因として新モデルのリリースを挙げる。次期モデルのスケジュールが公表されれば、計算インフラの稼働率と契約履行能力の目安となる。Financial Timesは訓練コストとパートナー収益シェアを引く前の粗利益率が80%超だったと報じた。
Broadcomに紐づく1612億ドル(約25兆5,000億円)のリース契約が履行されるには、継続的なモデル更新が必須だ。2033年7月までにGoogleへの最低コミットメント1111億ドル(約17兆6,000億円)が完了するまで、資金調達と収益成長のバランスが試される。草案提出から4ヶ月が経過した現在、公式開示に向けて数値の整合性が確認される段階に入った。写真では空のスタンドとフィールドを照らす照明が映っている。