RTX SparkノートPCでAC電源時にLinuxのGPUが低下
30秒でわかる内容解説
MindStudioは2026年11月4日、MSI PrestigeなどNvidia RTX Spark搭載ノートPCでLinuxを起動すると、AC電源接続時にGPUの動作周波数が大きく下がり、推論速度が約5分の1になる現象を報告した。原因はWindows専用ファームウェアが管理する暗号化された電源テーブルをLinuxが読み込めないためだ。当面はWSL(Windows上のLinux環境)が回避策として挙げられている。導入にはメモリ割り当ての調整が伴う。
デュアルブートで分かった速度差とメモリ条件
MSI Prestige N16 Flip AI Plusでは、Omarchy(Arch系Linux)で4K出力と120Hz、音声、キーボード、タッチパッドが設定後に動作した。Debian(Linuxディストリビューション)ではWi-Fiが認識されず、インストールにはUSB Ethernetアダプタが必要で、キーボード、タッチパッド、GPUも初期認識されなかった。
GPUの動作周波数(クロック)はWindowsで約2.2GHz出るが、AC電源接続時にLinuxでは約780MHzへ落ちる。120BパラメータのGPT-OSS-120B(大規模言語モデル)での推論速度はWindowsが65.4トークン/秒(生成速度の単位)、WSLが65.1、NvidiaのDGX Sparkデスクトップ機が61、同じノートPCのネイティブLinux(PCに直接入れたLinux)は13.9だった。
vLLM(Linux環境で優先的に開発されるLLM推論用ライブラリ)で8クライアントを同時に流すと、WSLは127トークン/秒、ネイティブLinuxは39.5トークン/秒にとどまった。長時間実行ではWindowsが約8分、Linuxが37分かかり、温度は40〜47℃だったため熱問題ではない。
CPUとGPUが共有する統一メモリ128GBのうち既定で96GBがGPU用に予約され、Linux側では28GBしか認識できない問題も起きた。CUDA(Nvidia GPU向けの並列計算プラットフォームおよびAPI)によるGPUアクセラレーションはNvidiaのオープンカーネルドライバで有効化できた。
暗号化された電源テーブルとWindows専用コントローラー
RTX SparkはMSI Prestige、Asus ProArt、Dell XPSに搭載され、DGX Sparkデスクトップと同じGPU設計を使う。DGX SparkはNvidia製Linuxビルドを初期構成に載せるが、ノートPC側はWindows on ARMで出荷される。ARM版WindowsとCUDAの組み合わせは、このチップで可能になった。
前述のメモリ配分はWindows側でしか調整できず、GPU予約を4GBまで下げると、Linux側で120GBが見えるようになった。
原因はWindows Device ManagerにあるNvidia Platform Controllers and Frameworkだ。 この部品がCPUとGPUの電力配分を管理し、Linuxには同等品がない。Windowsで無効化すると推論速度は約83から31へ落ち、クロックも約2GHzから786MHzへ下がった。
The deeper issue is that the firmware hands this controller a table of power settings that is encrypted.
より深い問題は、ファームウェアがこのコントローラーに暗号化された電源設定テーブルを渡す点にある。
再有効化すると速度はすぐ戻ったが、テスト中のソフトウェア回避策は成功せず、カーネルパニック(OSの中核が停止する深刻な不具合)も起きた。電源を抜くとLinuxでも動作周波数が上がり、速度もWindowsに近づいた。
Linux対応への不満とWSLで足りるという声
Hacker Newsでは、記事タイトルがDGX SparkとRTX Sparkを混同しているという指摘が複数出た。DGX SparkはLinux前提の製品で、問題が起きるのはノートPC側という区別だ。DGX Sparkユーザーからは、タイトルで誤解したという反応もあった。
WSLが回避策とされた点には、Microsoftに先行優遇されているという見方も出た。NvidiaはLinuxで閉じたドライバを長く批判されてきたため、電源管理まで暗号化されたことを疑問視するコメントが多い。NvidiaがDGX OS(NvidiaのLinux向けOS)を標準にしない理由を疑問視する声もあった。
一方で、実務的にはWSLで十分だとして開発を続ける意見もある。vLLMのようなLinux先行のAIツールが動くなら、ネイティブLinuxにこだわる必要はないという理屈だ。電源やクロックを調整するLACT(LinuxのGPU制御ツール)を挙げる声もあった。
楽観的な見方では、ファームウェアを解析して数週間で修正が出るという予測もある。課金機能化する懸念も出たが、それは未確認の推測で、クラウド依存が進むという批判もあった。AppleのiPhone減速騒ぎと比較する声もあった。
修正に必要なLinuxドライバと未確認の点
根本的な修正は、NvidiaがLinuxドライバにプラットフォームコントローラーの電源管理ロジックを実装することだ。MindStudioは、それが実現すればノートPCは持ち運び可能なDGX Sparkに近づくと説明する。
WSLはWindowsのカーネルとドライバスタック上でLinux環境を動かし、電源条件を問わずGPUブースト(動作周波数を上げる仕組み)を維持できる。既定のメモリ割り当ては14GBで、128GBの統一メモリでは手動で増やす必要がある。メモリ設定を調整すると、WSLの速度はWindowsに近づいた。
Linux先行のAIツールを使う開発者は、WSLを選べる。vLLMやSGLang(推論ツール)が動作し、ネイティブLinuxの低速化を避けられるからだ。
本件が単なる不具合なのか、将来の課金機能の兆候なのかは未確認だ。ファームウェアを解析して修正する試みも、公式に採用されるかは確認されていない。NPU(AI処理向けチップ)がLinuxで認識できるかどうかも未確認だ。
Linuxドライバへの電源管理ロジック追加時期は未確認だ。2026年11月4日時点では、修正の提供時期も確認されていない。
用語の注釈
- vLLM
- ローカルLLM推論を高速化するOSSエンジンで、UbuntuなどのLinux環境で使える。(参考:vLLMってなんだ? 〜ローカルLLM推論を爆速化するOSSエンジン ...)
- CUDA
- NvidiaのGPUで大量の計算を並列に走らせるための基盤と、プログラムから使うためのAPI。(参考:NVIDIA CUDAとは?主要機能やインストール手順、CUDA 13 ...)